円高は日本経済にとって神風 ー 斎藤誠一橋大学教授

消費者物価指数や国内企業物価指数は、わずかながらも上昇している。どうやら、顕著な物価下落が「深刻なデフレ感覚の原因」ではないようだ。働いても稼ぎが大きく減ってしまった時にも、深刻なデフレを感じる。日本のデフレ感の原因は、交易条件の悪化による所得の海外漏出にある。
(日経ヴェリタス 2012年5月27日51面 異見達見)

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斎藤誠氏は、日本を代表する優れたマクロ経済学者です。
その斉藤氏が、日銀の金融政策を批判するのは的外れである、と本稿で述べていることは注目に値します。

GDPデフレーター(日本経済が1単位の財・サービスを生産することで、どれだけ名目所得を獲得できるのかを示す指標)が21世紀に入って低下し続けている。

「GDPデフレーターの低下傾向は「一所懸命に生産活動をしているのに稼ぎや儲けがやけに
減っている」と嘆く労働者や企業経営者のデフレ感覚と見事に合致している(前掲紙)

その原因を斉藤氏は交易条件の悪化にある、と述べています。

「リーマン・ショック後に円高基調になっても日本経済の恩恵を完全に打ち消す勢いで資源価格が高騰して、円建て輸入価格は上昇した。一方、輸出は円高分の半分程度しか現地価格に転嫁できなかった結果、円建て輸出価格は低下した」(前掲紙)

つまり目先の雇用を優先し単純に生産量を増やしても、それによって大きな所得減を招くだけということになってしまうと言うのです。

それではどうすべきか。

「長期的には、地道な方法しか残されていない。第1に、国内生産で採算がとれない部門は、海外に移転する。第2に、生産性の高い部門に資本と労働を集中する。第3に、円高のメリットを生かす。海外でM&Aを展開するのにも、輸入資源代金を節約するのにも、円高は日本経済にとって逆風どころか、神風なのである」(前掲紙)

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