年金型生保に二重課税認定

保険金が年金形式で分割払いされる生命保険を受け取った遺族に対し、相続税と所得税を課税することが認められるかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は6日、二重課税に当たり違法との初判断を示した。そのうえで「課税は適法」とした二審・福岡高裁判決を破棄。所得税の課税処分を取り消し、原告側勝訴とした一審・長崎地裁判決が確定した。
日本経済新聞7月8日

【CFOならこう読む】

「判決によると、原告の長崎市の女性(49)は夫が死亡した2002年、死亡保険金4000万円と、10年間分割支給される総額2300万円の年金のうちの初年分として230万円を受領。死亡保険金と年金受給権は相続税の課税対象(各種控除が適用され納税額はゼロ)となり、年金は所得税を源泉徴収された。
女性は「相続財産には所得税を課さないと定めた所得税法に違反する」として、課税処分の取り消しを求め提訴。一審は06年「同一資産に対する二重課税で許されない」として請求を認めたが、07年の二審は「年金受給権への相続課税と個々の年金への所得課税は別」として一審判決を破棄、原告側が上告していた。」

以下、判決分を引用します。

「年金の方法により支払を受ける上記保険金(年金受給権)のうち有期定期金債権に当たるものについては,同項1号の規定により,その残存期間に応じ,その残存期間に受けるべき年金の総額に同号所定の割合を乗じて計算した金額が当該年金受給権の価額として相続税の課税対象となるが,この価額は,当該年金受給権の取得の時における時価(同法22条),すなわち,将来にわたって受け取るべき年金の金額を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額の合計額に相当し,その価額と上記残存期間に受けるべき年金の総額との差額は,当該各年金の上記現在価値をそれぞれ元本とした場合の運用益の合計額に相当するものとして規定されているものと解される。したがって,これらの年金の各支給額のうち上記現在価値に相当する部分は,相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ,所得税法9条1項15号により所得税の課税対象とならないものというべきである。

本件年金受給権は,年金の方法により支払を受ける上記保険金のうちの有期定期金債権に当たり,また,本件年金は,被相続人の死亡日を支給日とする第1回目の年金であるから,その支給額と被相続人死亡時の現在価値とが一致するものと解される。そうすると,本件年金の額は,すべて所得税の課税対象とならないから,これに対して所得税を課することは許されないものというべきである。」

相続税法24条1項は、年金受給権の評価を次のように定めています。

「有期定期金については、その残存期間に応じ、その残存期間に受けるべき給付金額の総額に、次に定める割合を乗じて計算した金額。ただし、一年間に受けるべき金額の十五倍を超えることができない。
残存期間が五年以下のもの           百分の七十
残存期間が五年を超え十年以下のもの      百分の六十
残存期間が十年を超え十五年以下のもの     百分の五十
残存期間が十五年を超え二十五年以下のもの   百分の四十
残存期間が二十五年を超え三十五年以下のもの  百分の三十
残存期間が三十五年を超えるもの        百分の二十」

今回の保険は10年間にわたり年金が支払われるものなので、年金総額×60%が相続税評価額ということになります。

年金現価係数表を見ると、この場合の運用利回りは10%超となります。今の市場環境から見ると相当に高いと言えます。この運用利回りの相当する部分については所得税の課税対象となると思われます。

今回の判決では、第1回目の年金は被相続人の死亡日に受給しているので、年金額=現在価値なので、全額所得税の課税対象とならないと判示しているだけなので、以降の年金受給額のうちどれだけが所得税の課税対象とするかは今後の検討課題となります。

それにしても夫が残してくれた年金を1円でも無駄にしないという訴訟を提起した女性の思いには、夫に対する深い愛情を感じ胸が打たれます。

【リンク】

平成20(行ヒ)16 所得税更正処分取消請求事件
平成22年07月06日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所[PDF]