HOYA1,200億円還流

HOYAは欧州の子会社にある資金約1,200億円を日本に還流させる方針だ。これまで海外で稼いだ資金は低税率のオランダの子会社で一括管理していたが、4月の税制改正で海外子会社からの受取配当金が非課税となったことを受け、財務戦略を見直す。親会社の手元資金を厚くして社債償還に備えるほか自社株買いなど機動的な株主配分に充てる考え。
(日本経済新聞2009年6月3日17面)

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税制改正の内容は次の通りです。

「1 外国子会社配当益金不算入制度の導入
(1) 間接外国税額控除制度は、所要の経過措置等を講じた上、廃止することとし、内国法人が外国子会社から受ける配当等の額について、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しないこととする制度を導入する。

(注1)上記の「外国子会社」とは、内国法人が外国法人の発行済株式等の25%以上の株式等を、配当等の支払義務が確定する日以前6月以上引き続き直接に有している場合のその外国法人をいう。なお、外国法人の所得に課された外国法人税を内国法人の納付する法人税から控除する旨を定める租税条約の規定により内国法人の外国法人に対する持株割合について異なる割合が定められている場合には、本制度の対象となる外国子会社の判定は、その割合により行うこととする。
(注2)本制度の適用については、確定申告書に益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細を記載するとともに、一定の書類の保存を要することとする。
(注3)上記の改正は、内国法人の平成21年4月1日以後に開始する事業年度において受ける外国子会社からの配当等の額について適用する。

(2) 内国法人が外国子会社から受ける配当等の額につき益金不算入とする際、その配当等の額の5%に相当する金額を、その配当等の額から控除する。また、その配当等の額に対して課される外国源泉税等の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととするとともに、外国税額控除の対象としないこととする。
(注)上記の改正は、内国法人の平成21年4月1日以後に開始する事業年度において受ける外国子会社からの配当等について適用する。」
財務省 税制ホームページ 平成21年度税制改正の要綱

この税制改正を受けHOYAは1000億円規模の資金環流を決めました。

「生産・売上の海外比率が高いHOYAは、2003年から税制上の利点が大きいオランダにグループの財務機能を移し、江間賢二CFOもオランダに常駐している。欧州やアジア子会社を傘下に置き、これらが稼いだ資金を、オランダの財務子会社が吸い上げて一括管理している。
このため同社の前期末の現金・預金は、連結ベースでみると2003年3月期に比べて2.8倍の2,145億円に増えているのに対し、単体では同14%増の472億円にとどまっており、大半が海外子会社のバランスシート上にある。
海外グループ会社の稼ぎを日本に還流させず海外で運用・再投資することで連結全体の税負担を抑えてきたが、税制改正を受け、資金管理の手法を見直すことにした。」(前掲紙)

2000年以降HOYAは明確に実効税率の引き下げ目標を掲げ、そのために税制優遇のある海外での生産を増やしてきたという経緯があります。

「「グローバル競争に打ち勝つため、実効税率を33%まで引き下げる」。HOYAの江間賢二専務は実効税率の引き下げに意欲を見せる。同社の2001年9月中間期の連結ベースの実効税率は38%、法定税率42%を下回っているが、まだ満足していない。
税負担を軽減するため、HOYAはシンガポール、タイのチェンマイなど税制の優遇策をとる地域での生産を増やしている。33%という実効税率の目標は米国のライバル企業を参考に設定したものだ。」(日本経済新聞2002年2月19日)

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上の表は、さっき僕がHOYAのウェブサイトから有価証券報告書をダウンロードして大急ぎで数字を抜き取ったものです。連結ベースでのキャッシュの増加と実効税率の低下が驚くほど進んでいることに気がつきます。

「タイの子会社が上げたバーツ建ての収益は、欧州統括会社が吸い上げてユーロに替えて一括管理。常にグループ全体に過不足なく資金が行きわたる仕組みだ。オランダの税制上の利点も少なくない。」(日本金融新聞2003年9月1日)

税制上の障害が取り除かれたことから、日本本社への資金還流も今後はタイムリーに行われるものと思われます。

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