IFRS 数理計算上の差異の償却

企業年金の積み立て不足が再び拡大してきた。2009年3月期末の主要上場企業の積み立て不足額は総額13兆502億円と、前の期末の2倍に急増。2003年3月期末(20兆8191億円)以来、6年ぶりの高水準になった。昨秋以降の株価急落などで年金資産が大幅に減った。積み立て不足は今後、費用として計上していく必要があり、不況下で利益の圧迫要因になる。年金制度の見直しなどで企業は難しい対応を迫られる。
(日本経済新聞2009年7月15日1面)

【CFOならこう読む】

積み立て不足とは次のように説明できます。

「将来の年金の支払額を予測し、いまのうちに会社が準備しておくべき金額をはじいたのが退職給付債務。これに対し、年金基金が持っている資産や、退職給付引当金(費用をあらかじめ計上)による手当がまだなされていない部分を「積み立て不足」と呼んでいる。積み立て不足が生じると、企業から年金への資金拠出や、引当金の追加計上で穴埋めする必要がある。」(前掲紙)

この積み立て不足の多い企業は次の通りです。

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日本経済新聞 2009年7月15日 1面より

積み立て不足は、会計基準上、積み立てないことを容認されているもので(そうじゃないと粉飾になってしまいます)、その内訳は、会計基準変更時差異の未処理、未認識数理計算上の差異、未認識過去勤務債務からなります。

昨日のエントリーでとりあげたJALの積み立て不足額は、3,314億円ですが、その内訳は、

会計基準変更時差異の未処理額 △756億円
未認識数理計算上の差異 △2,561億円
未認識過去勤務債務 2億円

と公表されています。

数理計算上の差異の金額が大きいのですが、これは、年金資産の期待運用収益と実際運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績値との乖離及び見積数値の変更等により発生した差異です。

日本基準では、数理計算上の差異は、過去勤務債務と同様平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理することが容認されていて、費用処理されていないものを未認識数理計算上の差異といいます。

国際会計基準IAS19及び米国会計基準FAS87は、数理計算上の差異の費用化は、い わゆるコリドー(回廊)方式で行なえることになっています。

コリドー方式は、数理計算上の差異に対し、一定枠は費用化せず、オフバランス債務での存在を許容する方式です。具体的には、年金資産ないし債務の大きい方の額の10%以内なら、数理計算 上の差異は費用認識しなくてかまいません。そして、10%超過分については償却費用しなければならないというものです。

ただし、退職給付会計は、現在もIFRSの改訂が検討されている流動的なエリアであり留意が必要です。

「ところが、現在、IASBはドラスティックな見直しを進めている。割引率や退職率の変更、運用実績と予定していた運用収益との差額になどによって生じたぶん(数理計算上の差異)を、その期に一括して償却する方向で議論が進んでいるのだ。
平均勤務期間という長い年月をかけて償却している現行の日本基準から見ると、その衝撃は大きい」(週刊ダイヤモンド2009年7月18日号)

【リンク】

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